東京高等裁判所 昭和26年(う)4063号 判決
起訴状に公訴事実を記載するのに際し、当該犯罪事実と何等直接の関係がない被告人の性格、経歴、素行等に関する事実をも併せて記載することは被告人を中傷し、その悪性を強調する虞があるから、刑事訴訟法第二百五十六条第六項の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。
しかし、放火、殺人等の事件においては被告人の経歴、身分、犯行の動機等を明らかにしなくては事件の全体を具体的に把握することができず、裁判所が罪となるべき事実を確定するのに多大の困難を感ずる虞があるのみならず、ひいては刑の量定の上にも少なからざる不便を生ずることが明らかであるから、これ等の事件について起訴を行う場合にはその起訴状に犯罪の構成要件に該当する事実のみならず、これを直接不可分の関係があると認められる被告人の経歴、身分、犯行の動機等をも相当具体的に記載することが許されるものと解すべきである。
ところで、本件放火の動機に関する所論起訴状の各記載は事件の全体を明らかにするために必要なものであり、決して所論のようなその程度を超えた裁判所に予断を抱かしめる虞のある不当なものということができないから、本件起訴状の記載には何等所論の違法はない。
論旨は理由がない。